スンニ・マラカナは子に恵まれなかったため、本来、兄マランダンが後を継ぐ予定であった。しかし、マランダンも4年前に亡くなったため、マランダンの養子のスンニ・ダウドが後を継ぐことになった。王兄の養子であるスンニ・ダウドの即位については快く思わない者も多く、彼は多くの者を味方につける必要があった。
彼はイスラム指導者からの支持の取り付けが重要だと考えた。そこで彼は「イスラム最高指導者(シャイフ・アルイスラーム)」の地位を官職として取り入れ、全ての部族の長老を統括し、裁判官と宗教指導者の任免権を与えた*1。そして自らは行政の統括者として「カリフ」の称号*2を得て、宗教指導者の宗教解釈に基づきイスラムの義務を遵守させる者であることを明言した。また、分離派の活動を禁止*3した。これにより国内の信仰心が高まりソンガイ帝国軍の士気は上昇した*4。
イスラム教が浸透してきたのはごく最近のことであり、急速な政教改革についていけない下級官吏もいた。ハウサ遠征終了後、スンニ・ダウドの下にある官吏を罷免するよう多くの声が寄せられるようになった。彼は非常に有能であり、より高い地位で能力を発揮でき得る人物であったが、残念なことに昔ながらの土着宗教を信仰していた。能力を惜しんだ周囲の者はみな改宗をすすめたが、彼は頑として首を縦に振らなかった。新体制の下では異教徒は排除すべき存在である。
「カリフ、あの者は即刻罷免なさいませ。」
「カリフ、異教徒が政治に携わるなどあってはなりません。」
スンニ・ダウドは迷った末に答えた。
「いや、我らには彼の能力が必要だ。」
ソンガイ帝国はあらゆる面で遅れており人材にも不足していた。たとえ異教徒であれ、他国に少しでも追いつくためには使わざるを得なかった。
こんなイベント初めて見ました*5 |
ソンガイ帝国軍がハウサ諸国に与えた打撃は大きかった。家々は焼かれ、男たちは戦死し、少しばかりの畑は騎馬隊に踏み荒らされ、女子供だけで村を再建するのは容易ではなかった。貧困に喘いだ人々は宗主国であるソンガイ帝国領へ流入するようになった。しかし、彼らは土着宗教を信奉している者が多かったため、異教徒の外国人の増加が懸念されるようになり、次第に「国境を封鎖すべきではないか」との声が聞こえるようになった。
この時期、ハウサとの統合を目指して融合政策を進めている最中であり、国境封鎖などできるはずもなかった。スンニ・ダウドはデンディに難民キャンプを作るよう命じ、難民を受け入れた。
絵は関係ありません*6 |
先年の帝国の大勝利は高額の傭兵によってもたらされたものであり、彼らを雇用するために国庫は空になっていた。さらに流入してきたハウサの民を養うには金が必要だった。そこで、
「輝かしい勝利の前には少しぐらい税金を上げてもいいだろう*7。」
と考えたのがよくなかった。
1458年、帝国内で最も貧しい地域であるデンディの民は増税と難民に対する怒りを爆発させ、反乱の狼煙を上げた。王弟カービフォは「弓射訓練だ」と鼻で笑い鎮圧にあたったが、舐めてかかったのが仇となり一度は首都ガオに逃げ帰る始末であった。
首都ガオを訪れる隊商から聞いた話では、サハラ砂漠を超えた先には科学技術が大層進んだ国があるらしい。諸国との戦争に勝つためには少しでも進んだ軍事技術を取り入れたい。ぜひかの国の科学者を我が国に招聘したい。問題なのは、かの国はキリスト教国家だということであり、科学者もキリスト教信者だということである。
「宗教指導者たちは公職につけることは賛成すまいな・・・。」
スンニ・ダウドは悩んだ挙句、公職ではなくカリフの私的な顧問という立場でキリスト教国の科学者を招いた。
サハラ砂漠越えは大変だったろうな*8 |
彼らは勇猛な騎馬隊で知られるソンガイ帝国には、東欧式の騎馬技術とより大集団での戦いを可能にする戦闘術を教えるのがよいだろうと考えた。その結果、我が国の戦闘技術は向上した。
やっとレベル2*9 |
1461年、首都ガオで焚書騒ぎが起こった。分離派の活動禁止を指揮する宗教指導者が民衆に異端の書の焼却を呼びかけたのだ。群衆は帝立図書館にも迫っているという。そこには数々の技術書が保管されていた。スンニ・ダウドは命じた。
「介入しろ。」
焚書騒ぎは鎮圧された。
焚書*10 |
敬虔なスンニ派信者はメッカへの巡礼を行う者も多かった。カネム・ボルヌ遠征が始まるまでは、カネム・ボルム領を通過しマムルーク朝カイロを経由してメッカに向かうルートが一般的であった。しかし戦争勃発後は戦地を避け首都ガオからサハラ砂漠をそのままカイロに向かうルートを使う者が増えた。隠れる場所のないサハラ砂漠は盗賊の巣窟であった。長旅のために大金を所持した巡礼者は盗賊にとって格好の餌食であり、皆殺しにあうことも多かった。あまりの惨状に、巡礼者の警護を嘆願する者が増え、警護を申し出る敬虔な戦士もでてきた。
「なんとしてでも守れ。」
スンニ・ダウドは巡礼者警護を強化した。
巡礼者襲撃*11 |
「No.4 海岸進出」につづく
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