ソンガイ帝国東部の地域であるデンディは約90%は砂漠地帯であり、人々はサハラ砂漠からの浸食に常に悩まされながら、ほんのわずかにあるステップで牛を飼い暮らしてきた。デンディから東にほんの少し行けば、ハウサ諸国領ザンファラに辿り着く。ザンファラは、地域の約65%がステップであり牛の餌にはことかかず、デンディの民からすると夢のような地域であった。国境など曖昧な時代のことである。デンディの民はザンファラにたびたび入り放牧を行うようになり、1446年、ついに領有権を主張するようになった。
スルタン・スンニ・マラカナは、以前から国が豊かになるためには象牙海岸への隊商ルートの確保が不可欠だと考えていた。隣国ハウサ諸国は象牙海岸にも領土を有しており、ハウサ諸国を支配下に置くことで問題は解決すると考えた。デンディの民からの訴えは絶好の口実であった。1449年7月、スンニ・マラカナ率いる帝国軍と傭兵軍の混成軍は、ザンファラに遠征した。
両国軍事比較 | ||||||
国名 | 歩兵 | 騎兵 | 砲兵 | 人的資源 | 合計 | 上限 |
ソンガイ | 3,000 | 1,000 | 0 | 11,050 | 4,000 | 6 |
ハウサ | 4,000 | 0 | 0 | 14,790 | 4,000 | 7 |
ハウサ諸国は沿岸部に所在する首都ボニーに主力部隊を配置していたのが災いした。内陸部のザンファラに向かうには、諸族の住むジャングルを抜けてこなければならないが、諸族に阻まれハウサ軍は援軍に向かうことができなかった。やむなく内陸部で傭兵を募集したが、統率のとれたソンガイ帝国軍の敵ではなかった。圧倒的勝利は目前に見えた。
1450年、高齢で戦場に立つスンニ・マラカナの動きは明らかに精彩を欠いていた。カツィナ攻略の指揮を執るスンニ・マラカナの額を1本の矢が貫いた。享年70歳、最期まで戦場に生きた武人であった。
スンニ・マラカナの後を継いだスンニ・ダウドは、ハウサ諸国遠征を続行した。主力部隊のいない内陸部の制圧に時間はかからず、1451年、内陸部の全ての部族は降伏した。もはや勝てぬと悟ったハウド諸国は、再三にわたりザンファラ、カツィナ、ゴビールの割譲を打診する使者を送ったが、スンニ・ダウドはそのたびに使者を追い返した。彼が狙っていた講和条件はそのようなものではなかった。ハウド国内が長引く占領に疲弊し厭戦ムードが高まったときに、ソンガイ帝国は使者を送った。それは属国になることを要求するものであった。ハウサ諸国にこれを拒否する力はもはやなく、1452年、ハウサ諸国はソンガイ帝国の属国となった。
1455年、スンニ・ダウドは両国融合の第一歩としてハウサの王族の娘を娶り第二夫人とした。これに怒ったのがカネム・ボルム帝国であった。カネム・ボルム帝国は古くからハウサ諸国と敵対しており、スンニ・ダウドがかの国の王族の娘と結婚したのが許せなかったのである。1456年、ついにカネム・ボルム帝国は同盟解消の使者を遣わし、以降、ソンガイ帝国の敵となった。
スンニ・ダウドはその後も融合政策を進め、1463年、ハウサ諸国はソンガイ帝国との併合を受け入れた。
「使者どの、一体どういうことかもう一度説明願いたい。」
「ですから、我らが敵ハウサ諸国が消滅した今、同盟の意義はなく解消したいと我が王は仰せです。」
首都ガオを突然訪れたマリ王国からの使者は、スンニ・ダウドの詰問に淡々と答えた。
「どうしても解消したいというならするがよい。ただ我らを攻撃した場合は、愛娘はどうなっても知りませんぞと国王ムサ3世にお伝えください。」
「我らは、カリフ・スンニ・ダウドは第一夫人にひどい扱いをしないと考えておりますが。」
使者の言葉を聞き、スンニ・ダウドは姻戚関係は抑止力を持たず、いまやマリ王国はソンガイ帝国の敵にまわったことを知った。
同時刻デンディでは、王弟カービフォが怪しい商人の一団を捕えていた。
「殿下、こいつ、カネム・ボルムの密使です。マリ王国への同盟要請文書を持っています。」
「なにっ。」
先年、カネム・ボルム帝国が突然同盟の解消を通告してきたのに立腹した兄王スンニ・ダウドは、新たなミッションとしてカネム・ボルム帝国の首都ボルノの征服を掲げた。カービフォは、ボルノ攻略に向けた傭兵を募集するために旧ハウサ諸国領に向かう途中だったのだ。
「カネム・ボルムがマリと同盟を結んではまずい。即刻宣戦布告する。」
カービフォは傭兵を集める前に即宣戦に踏み切った。
カービフォ率いるソンガイ帝国とカネム・ボルム帝国軍は首都ボルノで激突、結果はソンガイ軍の圧勝に終わった。カネム・ボルノの残存兵は密林地帯を経由しカノを攻略しようと考えた。しかし、諸族に襲われ全滅した。
もはや敵はなくカービフォの名は全土に轟くと思われた。しかし好事魔多しという。カービフォは気分転換を兼ね草原に狩りに出かけた。そこに突然現れたシマウマの群れ。驚いた馬はカービフォを振り落した。打ち所が悪かったのかカービフォが再び目を開くことはなかった。訃報を聞いたスンニ・ダウドは「仕方のないやつだ。」と言っただけだったという。
カービフォなき後もソンガイ帝国軍は攻囲戦を続け、首都ボルノと北方のダマガラムを陥落させた。1465年、ハウサ諸国の結末を知っていたカネム・ボルムはそれ以上の抵抗をせず、ソンガイ帝国の属国となった。
「No.3 政教調和」にすすむ