騒ぎは終わり、夜の帳が下りた頃、彼は老人に呼ばれた。彼にとって寝るには早い時間であったので、老人の相手でも大歓迎だった。
「アドニスよ、儂が君に会えるのも恐らくこれで最初で最後だ。どうか、この哀れな爺の話に付き合ってくれんか?」
老人の体の状態を推測して彼は肯定し、老人は話し始めた。
「君は、明日から戦争に行くのだろう?では、君はなぜ戦いにいくのかね?」
幼いころに徴収されてから戦うために育てられた彼には答えはなかった。"Our duty is not to reason why, ours but to do and die." 最近学び始めたイギリス語で彼はそんなことを思った。
「全く最近の若者は。どうせ君は歴史も知らんだろう?歴史を学ばないものは現在にたいしても盲目になるぞ。ここは少し、爺に一つぐらい祖父らしいことをさせてくれ。死ぬ前にな」
老人はそういって笑い、彼も笑い返した。他にどう返せばいいのか分からなかったのだ。
「我らの国の歴史は遡れば遠い草原にまで遡る。しかし、我々ギリシア人にはそれは関係のない話だ。そうだね、じゃあ最も偉大なスルタンの1人である、メフメト2世から始めようか。かの有名な"ファーティフ(征服者)"のあだ名くらいは聞いたことがあるだろう?」