……
「ブラーヴォ!(素晴らしい)」
パチパチパチ……!
……。
海外勢の激烈だが、泡のようにはじけては消えていく拍手……。
場内を支配するのは
不平不満の音……殺気!
「なにこれ…」
「このおかしな芝居はなに?」
「南蛮に媚びへつらうとは・・・御乱心召されたか⁉︎」
「殿……場内がいまにも燃えそうです!」
ムッ
スペイン万歳! 万歳! バンザーイ! パチパチパチ
(……とにかく笑っとけ)
「……」
パチパチパチ
「――客を出し終えました」
「本当にこんな芝居やってよかったのですか?」
「ああ」
「いいんだ……」
(今は――)
(これで――)
『フロイス日本史』によれば織田信長は、こう宣言したという。
「毛利を倒して日本を統一したら、一大艦隊を編成し、シナを征服する」
現在は衰退の兆しがあるものの、かつては
「一国で全欧州の商取引に匹敵する」
とまで謳われた超大国への挑戦状である。
小さな島国の「王」が見るには、大きすぎる夢ではなかったか?
激しい気性がなせる、一過性の大言壮語であったのか?
否!
結論から言うと当時の日本は強かった。
織田家に限っても、20万に届かんとする兵力と
その3割に火器を装備させるだけの経済力を有した、と資料は語る。
燎原の火のように燃え広がる野心を抱き
それを可能にする実力を持つ「信長日本」にとって
明との決戦は、避けがたい未来の一幕であり——
日本は一方の軍事帝国として世界の覇権レースに乱入する——
はずであったのだ……
貪欲な残虐者と言わねばならない。確かに秀吉は人を殺しすぎた。 敵も味方の肉親も。そして罪のない我が子まで! (『全能なる欧州 第4集』より)
しかし、豊臣秀吉の凄惨極まる統一事業が、まず大和民族を激減させ
それに——終わりなき内戦——『第二次 応仁の乱』が折り重なり、「軍事帝国」は露と消えた。
暗黒から細腕を外海に伸ばした西欧は、沈まない太陽をつかんでみせたが
燦然と輝く『日出ずる処』は、闇の淵へと堕ちていった。
信長の野望をそのまま引き継いだ秀吉は
幾度となく明征服への想いをめぐらせるが
自らが招いた惨状を前に諦めざるを得なかった。
豊臣信廉一世とウィリアム・アダムス
多くの識者が指摘するように、豊臣幕府を死の床へと誘った第一級の要因は、
商教一体を押し通す、カトリックへの公然たる憎悪にあったのは間違いない。
その好機を突き
英蘭勢、つまり布教をせず商売しか求めない
秀吉の後継者たる両信廉は、ウィリアム・アダムス、ヤン・ヨーステンらを重用し、その
(例えばあのスペイン帝国が、英国艦隊に大敗して凋落した……など荒唐無稽な話……!)
にのせられ、切支丹を根絶やし、愚かにも先端をひた走るイベリア勢との国交を絶つに至る。
新教国には、アジアに確固たる地歩などありはしない。
したがって、円滑な情報の伝達手段など無く
持ち込まれた「最新の見聞」は、カビが生えきっていた。
豊臣幕府は中国と同じく海に閉ざされ、時代の針を止めたのである。
一方政宗は、水をえた魚のように、戦乱を活き活きと泳いだ。
倭寇船を激しく飛ばし、豊家指針を無視した西欧との直接外交、『松平(※1)遣欧使節(※2)』をやってのけ
南蛮流に領内を開発し、制度を取り入れ、東亜にあって独り異形に進化した。
中でも伝統と、南蛮流を融合させた伊達軍の殲滅戦理論は世界の先端にいたり
豊家と兵力が並ぶやいなや、憂いなくそれに襲いかかり、ご存じの通り天下は政宗の手に帰したのである。
しかし、共喰いの果てに生まれた新生日本は未熟児同然。
それを統べる米沢幕府の最大動員兵力は——4万程度と推定される。
白村江に派遣された倭・百済遺民軍にすら届かない……数字である。
ひるがえって
スペイン帝国の動員可能兵力は
40万……!
戦力差は実に……10倍……
冠絶たる実力差
そして、その巨大で尖った
すでに日本の頭頂にあたる、千島列島をも呑み込んでいるのだ……
闇といえど、ここは
頭を押さえつけている
この世の誰をも魅了する黄金の蜜が流れている……。
舐めるには指一つ動かすだけでことたる、黄金の蜜が!
枯れた
それを望んでいるのは火を見るより明らかである。
これまで、日本が踏み潰されなかったのは、神のご加護という他ない。
おお神よ! 哀れな米沢幕府を救いたまえ!
我は政宗。
父を撃ち、母に毒をもられ、弟を斬り、最後に秀吉に殺された
冥府より舞い戻りし龍よ。
どうして鯨ごときに気圧されようか。
この——
詐欺、狂信、虐殺――
テメーの罪――
最期の審判はオレが下す。
妨げるものは ひとりひとり 正々堂々と 欺き 油断させ 寝首を掻き
米沢幕府は闇の中。
だが真夜中にあってこそ、星は輝くのだ。
セウタ攻略から200年遅れてきた男が
信長、秀吉の星を継ぐものとして……
——うって出る。
さあ、出航だ!